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高松地方裁判所 昭和48年(ワ)143号 判決 1975年3月31日

原告

小西忠治

被告

東洋電気通信工業株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告に対し金一七七万七、八七六円及びうち金一五七万七、八七六円に対する昭和四五年一二月二三日から支払い済みにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その三を原告の、その二を被告らの各負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

一  被告らは、各自、原告に対し、金四二三万九、〇六五円及び内金三七六万二、七八七円に対する昭和四五年一二月二三日から支払い済みにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行の宣言。

第二請求の趣旨に対する答弁(被告両名)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第三請求の原因

一  被告東洋電機通信工業株式会社(以下、被告会社という。)は、表記住所地に本店を置き、全国に一四ケ所の支店を置いて、電気通信工事の設計、施行、請負等をその業務とし、主として、日本電信電話公社からマイクロケーブル埋設等の工事を請負つている会社である。

被告安部は、被告会社の専属的下請業者であり、安部組の商号のもとに主として、被告会社の高松支店および愛媛支店が担当する被告会社の請負工事を専属的に下請していたものである。

二  事故の発生

1  日時 昭和四五年一二月二二日午前一〇時二五分ごろ

2  場所 香川県小豆郡池田町大字吉野、吉野崎峠付近の県道上

3  加害者 訴外、香川豊吉

4  被害者 原告

5  態様

原告は、普通乗用車を運転して事故現場付近を北進中、対向方向から進行してきた訴外香川運転の加害車両(香六り・一四〇七号)を発見したので、危険を感じ一時停止していたところ、加害者車両がセンターラインをオーバーして原告車の進路に侵入し、勢いあまつて横向きになり、加害車両の右側部が、停止していた原告車の前部に衝突したものである。

なお、訴外香川は、土庄簡裁にて罰金三万円に処せられている。

三  傷害の程度

原告は、本件事故により自車のハンドルで腹部を強打し、腸間膜動静脉損傷、後腹膜出血、左下腿骨骨折等の重傷を負い、直ちに近くの土庄町立中央病院に運ばれたが、腹腔内出血があり一時血圧は四〇位まで低下して、手術に耐えられないとして医師は一時サジを投げていたが、幸い腹部切開手術が成功してかろうじて一命を取留めた。

原告はこのため同病院で、昭和四五年一二月二二日より昭和四六年九月二日までの二五五日間入院治療を続け、退院後もなお通院治療を続けているものである。

現在の症状としては、かなり回復したものの身体に粘りがなくなり、虚脱感があり、週のうち二日位は勤務を休んでいる状態である。

四  責任原因

1  訴外香川は、被告安部の使用人であり、かつ本件加害車両は被告安部の所有であるから、被告安部は、自賠法三条により運行供用者として、原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

2  被告会社は、次に述べる理由により、本件事故につき自賠法三条の運行供用者として、原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

(一) 被告安部は、被告会社が日本電信電話公社から請負つた香川県小豆郡池田町付近のマイクロケーブル埋設工事を施行するために、訴外香川ら一四、五人の人夫を同行して工事にあたつていたこと。

(二) 被告安部は被告会社の専属的な下請人であり、主として被告会社の高松支店および愛媛支店の管内の工事を下請している関係にあつたこと。

(三) 被告安部は、本件加害車両の外三台位の自動車を埋設工事用として使用していたが、その中には、ボデーに被告会社の商号が記載されている車もあつたこと。

(四) 埋設工事現場には、被告会社の商号を表示した看板が立てられていたこと、及び被告安部が人夫と共に池田町で宿舎にしていた家には被告会社の商号の入つた看板が立てられていたこと。

(五) 池田町の工事での下請としては、被告安部の率いる安部組だけが人夫を同道して工事に来ていたこと、及び本件加害車両をも含めて被告安部が使用していた車のガソリン代は被告会社が支払つていたこと。

(六) 訴外香川の本件事故は、訴外香川が前記下請けにかかる埋設工事用の資材を自動車に積載して工事現場に向かう途中で発生したものであること。

3  被告会社は、仮に自賠法三条の責任がないとしても、次の理由により民法七一五条の使用者責任は免れない。

安部組が担当していた池田町のマイクロケーブル埋設工事は、被告会社が日本電信電話公社から直接請負つた工事であり、被告会社としては右公社に対し、契約上技術指導の責任があり、現場には被告会社から工事長外一名の職員が派遣され、安部組を直接指導していた。資材の購入等についても、被告会社が安部に代つて購入し、後日清算する方法がとられていた。

したがつて、被告会社は池田町の工事に関しては、安部組に対し直接指揮命令権を有していたものであるから、民法七一五条により安部組に所属する訴外香川が被告会社の右事業の執行について原告に与えた損害を賠償する責任がある。

五  損害

本件事故により原告の蒙つた損害は次のとおりである。

1  治療費 一四六万二、七八七円

前記の如く、原告は本件事故により、土庄町立中央病院において昭和四五年一二月二二日より昭和四六年九月二日まで入院治療を受け、退院後も引き続き八ケ月以上の長期間にわたつて通院治療を受けたが、原告はその治療費として右病院に対し、一四六万二、七八七円支払い、同額の損害を蒙つた。

2  休業補償 八〇万円

原告は、本件事故にあつたため前記の如く約九ケ月間入院治療を受け、昭和四六年九月二日退院した後もほとんど働きに出ることができず、入院以来約一年間にわたり同年一二月ごろまではほぼ休業状態が続いた。

原告は、第一生命保険相互会社の高松支店に勤務していたものであるが、事故の前年である昭和四四年度の収入は源泉徴収票によれば七六万五、六一八円支給されている。

事故前の三ケ月間の収入平均は、一ケ月約七万円(三ケ月間の合計二一万七、一八二円)である。

従つて、原告は少なくとも事故にあわなければ一年間に八〇万円の収入を得ていた筈であるから、休業によりその収益を失ない、同額の損害を蒙つた。

3  慰謝料 二〇〇万円

原告は妻と七人の子供がいるが、四人の子供は独立して現在は中学生の双児の姉妹と長女の五人家族である。原告は本件事故のため腹腔内出血により生命の危機に遭遇し、九死に一生を得たものであり、入院期間、通院期間および現在の症状から考えると、慰謝料として二〇〇万円が相当である。

4  保険金控除

原告は自賠責保険より治療費として五〇万円の支払いを受けているので、右損害から右金員を控除する。

5  弁護士費用

原告は本訴訟の代理人に訴訟の提起を委任し、着手金として一〇万円を支払い、判決認容額の一割の報酬を支払うことを約した。これは被告が支払うべき損害である。

六  よつて、原告は被告らに対して、連帯して四二三万九、〇六五円及びうち金三七六万二、七八七円については事故の翌日である昭和四五年一二月二三日より支払い済みにいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四請求の原因に対する答弁及び主張

一  被告会社

1  請求の原因第一項の事実中、被告会社が原告主張のところに本店、支店を置き、電機通信工事等の業務を行ない、日本電信電話公社から電話線の架渉工事等の工事を請負つていることは認めるが、その余の事実は否認する。

2  請求の原因第二項の事実中、原告主張の交通事故が発生したことは認めるが、当時原告が運転していた車が普通乗用車であつたこと及び事故の態様は争う。

なお、訴外香川豊吉が右事故を理由に土庄簡裁で罰金三万円の刑に処せられたことは認める。

3  請求の原因第三項の事実はすべて知らない。

4  請求の原因第四項の事実中、1の事実は知らない(但し、本件加害車両が被告安部の所有である旨の主張は争う。本件車両は訴外中原明の所有するものであつた)。

同項2の冒頭の主張は争う。なお、被告会社が運行供用者でない理由は後記6のとおりである。2の(一)、(二)の事実は否認する。(三)の事実中、被告安部所有の一台の車に被告会社の商号が記載されていたことは認めるが、その余の事実は争う。被告安部が使用していた車両は本件事故車を含め二台であつた。(四)の事実中、工事現場に被告会社の商号を記載した看板が立てられていたことは認めるが、その余の事実は否認する。(五)の事実は否認する。(六)の事実は争う。

同項3の事実を否認し、法律上の主張を争う。

5  請求の原因第五項の事実中、1、2の各金額は知らない。3の金額は争う。4の原告が自賠責保険から五〇万円の支払いを受けたことは認める。5の事実は知らない。

6  被告会社が本件事故車の運行供用者でない理由は次のとおりである。

(一) 被告会社は日本電信電話公社から電話線架渉工事等を請負つているものであるが、被告会社は電々公社より土庄局の従局である三都局の加入者新増設工事を、工期昭和四五年八月二〇日から同年一二月一八日迄として請負い、この工事を訴外日本電設株式会社(当時、同会社の本社は松山市二番町四丁目二番地一三)に請負わせた。同会社は該工事を同会社の傘下にある植村組及び野田組に施工させていたものであつて、たまたま右日本電設の傘下にある被告安部(組)の仕事の手が空いたため、右三都局の工事を安部組に手伝わせていたのである。そして、右工事は昭和四五年一二月一八日完工し、被告会社は日本電設から右工事を完成したものとして引渡しを受けていたものであつて、本件事故当時、植村組、被告安部らが右三都局工事に関してなすべき工事、作業は残存してはいなかつた。

また、原告主張の池田局の工事に関しても、被告会社は訴外日本電設に下請させていたが、同会社がその工事を被告安部に施工させていたもので、被告会社が被告安部に下請させていたものではない。

かように、被告安部は被告会社の下請業者でもなければいわんや被告会社の専属的下請人でもない。

(二) 被告会社従業員が電々公社に対する責任上、右の工事現場に臨み工事内容を点検することはあるが、被告会社従業員が被告安部の従業員と同一宿泊所に宿泊したこともないし、被告会社名の看板を立てた宿泊所に被告安部の従業員が宿泊したこともない。

(三) 本件事故車は、被告安部が訴外中原明から月賦販売で購入し(但し、所有権は中原が保留)、被告安部が単独で使用し、右購入について被告会社は何らの資金援助をしたこともないし、原告主張のようにガソリン代を支払つてやつたことは一度もない。また、被告会社と被告安部との間にそのような経営上、経理上の取引関係は存在しない。

なるほど、被告安部使用の自動車の一台に、たまたま被告会社の社名を記載してあつたけれども(但し、本件事故車に被告会社名を記載していなかつたことからも窺えるように、この記載は強制的なものではない。)今日の企業体が自己の系列下にある業者の営業所、車輛等に自己の社名、商品名を記載させて宣伝しようとすることはあらゆる業界にみられる現象であつて、被告の商号を被告安部使用の車輛ボデイに記載していたことの故をもつて、被告会社が本件事故車の運行供用者であるとすることはできない。

7  仮に、被告会社に損害賠償の責任があるとしても賠償額を定めるについては原告の過失及び原告側に存する次の事情を斟酌すべきである。

(一) 本件事故の主たる原因は原告の重大な過失に起因するものである。

すなわち、本件事故現場の小豆郡池田町大字吉野、吉野崎峠は幅員約八メートルの南北に走る県道で中央線で区分され、東側は山、西側は海岸に面し、南に下り坂であつて、且つ衝突地点の北方は南に向つて左方にカーブしているところであるが、当時、北から進行して右のカーブを左に曲り切つたところの北進車線の路肩が約一〇メートルに亘つて決壊し、その北進車線上には防護柵が三個並べられていて同所の北進車線は通行出来ない状態にあつた。

訴外香川豊吉は、普通三輪トラツクを運転し、時速約四〇キロメートルで左側通行により南進し、前記カーブを曲りつつ進行していた時、前方を時速約五〇キロメートルで北進対向して来る原告の普通貨物自動車を発見し、南進車線に侵入して来たので衝突を避けるため、急制動の措置を執るとともに左にハンドルを切つたところ、訴外香川の車が三輪車であつたためと当時降雨後で路面が湿潤していたため、車体後部が右に振つてスリツプし横向きの状態で停車したところへ、原告の車の前部が訴外香川の車の後部右側に衝突して停車し、そのため原告が傷害を受けたのである。

右の道路状況からするならば、原告としては中央線を越えて南進車線に入らなければ通過できないのであるから、同所付近で離合する対向車があるときは、その対向車に優先権があり、原告としては決壊箇所手前において極力減速し、対向車の有無を確認し、対向車あるときは決壊箇所手前で一時停車し対向車と離合した後に同所を通過すべき注意義務があるのにこれを怠り漫然進行した過失がある。また、衝突の危険発生後も、原告は衝突を回避するために即座にハンドルを左に切るなど適切な措置を執らなかつた過失がある。本件事故の発生は、原告のこの重大な過失に主たる原因がある。

(二) 原告は小豆島貨物運輸株式会社の貨物運送業を手伝つていて本件事故を起したものであるが、原告運転の本件普通貨物自動車は右運輸会社の車ではなく、同会社に当時車の余分がなかつたため他人の自家用車を借受けて原告が運転していたものであつて、原告は右四輪貨物自動車の運転には慣れていなかつたものと考えられ、特に貨物自動車にはそれぞれ特有の癖があるがこの癖も十分会得出来ていなかつた。このことも本件事故発生における原告の過失と看做される。

(三) 以上の事情を斟酌すると、本件事故は原告の過失七割、訴外香川の過失三割が競合して発生したものと考えられるのであつて、右の割合で過失相殺すべきである。

8  原告はその主張のとおり自賠責保険により五〇万円の支払いを受けた外、被告安部からいずれも治療費として、昭和四六年一月一六日四一万円、同年四月三日二五万七、一八六円、同月一二日四万四、三七八円、同年八月二三日二万四、五一〇円、事故直後に七万円、合計金八〇万六、〇七四円の支払いを受けている(前記五〇万円を含め総合計一三〇万六、〇七四円支払い済み)からこれを賠償額から控除すべきである。

二  被告安部

1  請求の原因第一項のうち被告会社に関する部分を認め、被告安部に関する部分を争う。

2  同第二項のうち、原告主張の事故の発生と訴外香川の処罰に関する原告の主張事実を認め、事故発生の態様を争う。原告運転の自動車は小型トラツクであり、原告は事故前に停止していなかつた。

3  同第三項のうち、入院期間と通院の事実を認めるがその余は知らない。

4  同第四項1の責任原因事実を認める。

5  同第五項の損害発生に関する主張は知らない。

6  事故の発生については原告にも過失があつたから、損害賠償の額を定めるについてその過失を斟酌すべきであるし、損益相殺の主張については被告会社と同様である。

第五被告らの主張に対する原告の答弁

一  (過失相殺の主張について)

被告らは本件事故は原告の過失も寄与していると主張するが、加害車は原告が危険を感じて停止していたところへ、カーブでスピードを出しすぎたために充分に曲り切れず、かつ雨のため漏れていた路面でハンドルを取られて横になりながら、スリツプして原告車に衝突したものであるから、原告には過失はない。

二  損益相殺に関する被告らの主張事実を認める。

第六証拠関係〔略〕

理由

一  事故発生の態様と原告運転の自動車の種類はともかくとして、原告主張の交通事故(以下本件事故という。)が発生したことはすべての当事者間に争いがなく、被告安部が加害自動車を自己のために運行の用に供し、その供用により本件事故が発生したことについては原告と同被告との間に争いがない。

したがつて、同被告は、本件事故により原告が負傷し損害が生じたとすれば、自賠法三条によりその損害賠償責任を負うべきである。

二  次に、被告会社の帰責原因の有無について検討する。

被告会社が、請求の原因一記載のとおりの事業を行なつていた会社であることは原告と被告会社との間に争いがなく、この事実と〔証拠略〕によれば、本件事故を発生させた加害者が運行されるにいたつた経緯について次の事実を認めることができる。

被告安部は安部組の商号のもとに一〇人程の人夫を使用し、昭和四一年ころ以降、被告会社から、同会社が電電公社から請負つた電話線埋設工事の下請事業を行つていたが、後に被告会社の系列会社として訴外日本電設株式会社が設立されてからは、被告会社からの工事請負は、日本電設が一旦被告会社から下請したものをさらに被告安部が下請する形式をとるようになつた。しかし、このように日本電設を通してさらに下請する形式をとるようになつた後においても、工事施工とその監督等、下請の実態は被告安部が被告会社から直接に下請していた当時と変りがなかつた。本件事故が発生した当時も被告安部(以下安部組ということもある。)は、被告会社から、日本電設を通して香川県小豆郡池田町における電話線の埋設工事を下請し、一〇人程度の人夫を使用し、約四台の自動車を用いて工事施工をしていたのであるが、工事施工については、被告会社から派遣された工事長のほか二・三人の職員の監督を受け、また安部組の工事場には被告の商号を記載した表示板が取付けられ、工事に使用の前記自動車のうち一台にも被告会社の商号が表示されていたが(これらの表示については争いがない。)、被告会社はこれらの表示を許容しており、資材の買付けについては安部組に資金がなく、被告会社又は日本電設(もつとも、安部組の人夫にとつては日本電設の存在を知らない者もおり、工事現場にも日本電設の名は表示されていなく、日本電設は形式上の下請人であつた。)から資材を回して貰い工事代金から差引き決済をしていたこともある。

さらに、安部組は工事用の自動車の燃料をガソリンスタンドから買受けるに当り、被告会社の商号を用いて取引をし、完部組の人夫らは外部に対し、安部組の名称を用いるよりも、被告会社の名称を用いて自己の所属を表示していた。

本件事故は被告安部の人夫である訴外香川豊吉が、同被告の下請にかかる前記池田町の電話線埋設工事の終了にともなう完工検査に関し、被告安部を加害車で土庄港まで送り、その帰途、加害者を運転していて起した事故である。

以上のとおり認められ、この認定に反する証拠はない。

以上認定の事実から考察すれば、被告会社と被告安部との工事下請について日本電設が中間に介在し、被告安部はいわゆる孫請の形式となつていたけれども、下請の実態は被告会社と被告安部との間の直接の下請と異なるところがなく、被告安部は、被告会社の工事長等の派遺職員により、現実に下請工事施工の監督を受ける立場にあり、事業の運営についても一部被告会社から便宜の供与を受け、さらに、外形上被告会社名を表示することも許容されていて、被告会社の専属的下請関係にあつたとまではいえないとしても、客観的に被告会社と極めて密接な関係にあつたというべきであるし、また主観的にも被告安部及びその人夫らにおいて被告会社に対する帰属意識が強かつたものと評価することができる。

したがつて、このような事実関係においては、被告会社は、被告安部がその人失に加害車を運転させてこれを下請事業のために運行するのについて、支配を及ぼしうる地位にあつたというべきであるから、被告会社もまた加害者の運行供用者であり、本件事故により原告が負傷し、損害が生じたとすれば、自賠法三条によりその損害賠償責任を負うべきである。

三  そこで、負傷と損害の有無について検討する。

原告と被告会社との間に成立について争いがなく、被告安部は明らかに争わないので成立を認めたものとみなされる〔証拠略〕によれば、原告は本件事故によりその主張のとおり、負傷し、入・通院のうえ加療し、(被告安部との間では入・通院の事実とその期間は争いがない。)、主張の金額の治療費を支出したこと。原告は事故当時第一生命保険相互会社高松支社に勤務し、事故前にその主張のとおりの収入を得ていたが、事故により負傷し、事故当時から昭和四六年九月にいたる約九カ月間の入院と退院後も同年一二月まで、ほとんど毎日のように通院加療を余儀なくされ、事故後一年余にわたり休業してその間全く収入を失ない、その金額は少なくとも八〇万円に達すると見積られることがそれぞれ認められ、この認定に反する証拠はない。

したがつて、原告は本件事故により負傷し、その主張のとおりの治療費損害(一四六万二、七八七円)と休業損害(八〇万円)を蒙つたことが明らかである。

なお慰謝料及び訴訟委任による損害については後に検討する。

四1  次に過失相殺の主張について考察するのに〔証拠略〕を総合すれば、本件事故発生にいたつた加害車、被害車双方の衝突にいたるまでの動きに関する双方の証拠は、相互に著しく相違するところがあり、それらの証拠にはそれぞれ自己に有利に潤色して供述された疑いがあつていずれも全幅の信頼を措くことはできないし、衝突にいたるまでの双方の移動経過を克明に窺わしめる物的証拠も存在しないのでその経過の詳細を明らかにするにはいたらないが、少なくとも次の事実は、動かし難い事実としてこれを肯認することができる。

すなわち、本件事故現場付近の道路はほぼ南北に通じる幅員約九・五メートルの、また中央線で車線区分が表示された、舗装道路であつて、東側にわん曲し、かつ東側に山が迫つているために、北進車・南進車とも進路前方の見通しが悪い。また道路の西側は海側となつているが、衝突地点のすぐ南の箇所において、北進車線の路肩が長さ約一〇メートルにわたつて崩落し、その部分の北進車線上に三箇の防護柵が置かれていたので、この部分の北進車線(道路の西側半分)は車輛の通行ができない状況であつた。

したがつて、北進車が崩落箇所付近を通過するには、対向車線(南進車線)を通らなければならないのであるが、その場合北進車が崩落箇所の手前で進路前方を見通しても、道路のわん曲と東側に迫つた山とにより視界が遮断されて、僅かに、前方四〇メートルくらいの距離が確実に見通せるにすぎない状況であつた。

また、南進車の場合にも道路の前記状況により視界が妨げられて進路前方の見通しが悪く、崩落箇所付近の進路状況は前記の距離程度に接近するまで見通すことができない状況であつた。

さらに、本件事故当時は雨により路面が濡れ、滑り易い状態になつていた。

原告は以上の状況のもとで、普通貨物自動車(被害車)を運転し、上り坂を北進して崩落箇所にさしかかり、その際対向車が見えなかつたところからその手前で対向車線に進入し、時速少なくとも二五キロくらい(その正確な速度は、加害者側、被害者側にそれぞれに有利に潤色して供述されたと思われる証拠があつて、いずれとも判定し難いが、少なくともこの程度の速度が出ていたことは否定できない。)で崩落箇所脇の南進車線を通過した。他方被告安部の人夫であつた訴外香川豊吉は三輪貨物自動車(加害車)を運転して下り坂を南進し、時速少なくとも四〇キロ(この点の正確な速度を判定することができない事情は前述と同様である。ただし、衝突前に、加害車がスリツプして方向を変えたことは後記のとおりであつて加害車がかなりの速度を出しており、被害車よりも高速であつた。)で事故現場近くにさしかかつたが、死角になつて見えない前方に崩落箇所があり、片側通行しかできない状況であることを知つていたものの、見える範囲に対向車がなかつたところからそのままの速度でわん曲部分を回つた。

そして、原告は崩落箇所脇の対向車線に進入した後、加害車が対向して接近して来るのを発見して直ちに急制動を施し、他方訴外香川もわん曲部分を回つた際、被害車が自己の進路前方を対向して接近して来るのを発見して直ちに急制動を施したが、双方とも滑走し、加害者はスリツプして車の向きをほぼ直角に東に転じ、横向きとなつて後部を道路中央部に突き出し、加害車の右側後部と被害車の前部とが道路中央部において衝突した。

〔証拠略〕のうち以上の認定に反する部分はいずれも供述者が自己に有利に誇張して供述した疑いがあり、採用できない。ほかには以上の認定に反する証拠がない。

2  以上の事実関係から判断すると、原告としては前方の見通しのきかない道路の対向車線に進入して通過する以外に通行の方法がなく、したがつて対向車線に進入した後に対向車が現われるときは出会いがしらに衝突事故を起す危険があつたというべきであり、さればといつて、対向車線に進入するに際し、死角となつているわん曲部分のさらに前方に対向車があるか否かを確認する方法は、右の道路事情においては、存在しなかつたものと考えられるので、このような危険を予防するためには警笛吹鳴により他に注意を喚起するとともに適宜減速して、対向車線に進入し、通過することが必要であつたというべきである。

他方、訴外香川豊吉としても、進路前方の死角内に片側通行の場所があり、同所までの距離的関係と滑り易い路面の状況からして、前記速度によりわん曲部分を進行するときは、片側通行のため自己の進路に進入して対向進行して来る車輛と出会いがしらに衝突する危険があつたのであるから、警笛吹鳴により他に注意を喚起するとともに適宜減速して進行する必要があつたというべきである。

しかるに、原告も、訴外香川も前記各証拠によれば、その処置を怠つたことが認められ、双方にこの点の過失があつたことが明らかである。

3  そうだとすると、本件事故については原告にも過失があつたから、損害賠償の額を定めるのについて、その過失を斟酌し、前記三の損害額合計二二六万二、七八七円の七割に当る一五八万三、九五〇円をもつて賠償額とするのが相当である。

五  慰謝料については負傷の程度(原告主張のとおり頻死の重傷であつた。)、入・通院の状況(入院二五五日、実通院三七〇日余)、(〔証拠略〕により認められる。)、双方の過失の程度等を考慮し、一三〇万円をもつて相当と認める、

六  次に損益相殺については、原告主張の自賠責保険による五〇万円を含め被告ら主張の一三〇万六、〇七四円が弁償ずみとなつていることは当事者間に争いがないので、これを前記四、3及び五の金額合計二八八万三、九五〇円から控除し、残金一五七万七、八七六円が実際の賠償額となる。

七  訴訟委任の費用については、弁論の全趣旨に照し、原告主張のとおりの着手金を支払い、報酬支払いの約束をしたものと認めることができる。

本件訴訟の難易・認容額等の事情を考慮し、そのうち二〇万円をもつて賠償額とするのを相当と認める。

八  以上の次第で、原告の請求は前記六と七の損害金合計一七七万七、八七六円と、うち弁護士費用を除く一五七万七、八七六円に対する事故後の昭和四五年一二月二三日から支払いずみまでの民法所定の年五分の割合により遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浦野信一郎)

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